東京地方裁判所 平成3年(ワ)12428号 判決 1992年4月17日
原告
神林まさみ
ほか一名
被告
松本良一
ほか一名
主文
一 反訴被告らは、反訴原告神林まさみに対し、各自一一万五七九〇円及びこれに対する平成三年一月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴被告らは、反訴原告神林薫に対し、各自三五万七一四四円及びこれに対する平成三年一月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 反訴原告らのその余の反訴請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その七を反訴原告らの、その余を反訴被告らの各負担とする。
五 この判決は、反訴原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 反訴被告らは、反訴原告神林まさみに対し、各自六一万五七九〇円及びこれに対する平成三年一月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 反訴被告らは、反訴原告神林薫に対し、各自一〇〇万三六七〇円及びこれに対する平成三年一月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は反訴被告らの負担とする。
4 1、2項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 反訴原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は反訴原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生
<1> 日時 平成三年一月一〇日午前五時五〇分ころ
<2> 場所 東京都荒川区西日暮里五―二六(道灌山通り)
<3> 態様 反訴被告松本良一(以下、「被告松本」という。)運転の業務用普通乗用車(タクシー、以下、「被告車」という。)が、前記道灌山通りを進行中、<2>記載の場所(進行方向左側)にある道路標識、ガードレールに衝突し、被告車に乗客として同乗していた反訴原告神林まさみ、同神林薫の両名(以下、「原告まさみ」、「原告薫」という。)が負傷した。
2 責任原因
(一) 被告松本には、乗客を安全に運搬すべき運送契約上の義務及び前方左右を注視して進路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然と進行した過失により本件事故を惹起した。
したがつて、原告らは、被告松本に対し、運送契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権及び民法七〇九条に基づく損害賠償請求権を有する。
(二) 反訴被告中央自動車株式会社(以下、「被告会社」という。)は被告車を所有し、自己のため運行の用に供していた。
また、被告会社は、本件事故当時、被告松本をして、その業務に従事させていた。
したがつて、原告らは、被告会社に対し運送契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権並びに民法七一五条及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条本文による損害賠償請求権を有する。
3 損害
(一)(1) 原告まさみは、本件事故により、頭部外傷(打撲症)、顔面打撲擦過傷、両側下腿打撲症、口内裂創、頸椎捻挫、左肩甲部挫傷の傷害を受けた。
(2) 原告薫は、本件事故により、頸椎捻挫、頭部打撲等の傷害を受けた。
(二)(1) 原告まさみは前記受傷により、以下の損害を被つた。
<1> 治療費 一七万二七三〇円
岡田病院(通院) 七万四三六〇円
平成三年一月一〇日から同月一八日まで 実日数三日
花の木歯科診療所(通院) 九二六〇円
平成三年一月一四日から同月二四日まで 実日数四日
寺田病院(通院) 八万四八四〇円
平成三年一月二九日から同年三月六日まで 実日数四日
戸叶耳鼻咽喉科医院(通院・文書料を含む) 四二七〇円
平成三年一月一二日 実日数一日
<2> 通院交通費 四八六〇円
<3> 休業損害 八〇万〇〇〇〇円
原告まさみは、本件事故当時、訴外株式会社小西の経営するミニクラブ「ニユークローバー」のホステスとして勤務しており、本件事故により、顔面の腫れが引かず、また、会話にも支障をきたしたため、接客ができず、平成三年一月一〇日から同年二月二八日まで、五〇日間欠勤を余儀なくされ、その間、給与が支給されなかつた。なお、本件事故前三か月の給与合計は一四四万円である。したがつて、休業損害は八〇万円となる。
1440000÷3÷30×50=800000
<4> 入通院慰謝料 八万一四〇〇円
<5> 合計 一〇五万八九九〇円
(2) 原告薫は前記3(一)(2)の受傷により、以下の損害を被つた。
<1> 治療費 三九万六一六〇円
岡田病院(入院・個室費用を含む) 二九万四〇八〇円
平成三年一月一一日から同月一九日まで 九日間
岡田病院(通院) 三万六九八〇円
平成三年一月一〇日から同月二二日まで 実日数二日
寺田病院(通院) 六万五一〇〇円
平成三年一月二八日から同年三月六日まで 実日数五日
<2> 休業損害 七五万八三〇〇円
原告薫は、本件事故当時、スナツク「道」に勤務しており、平成三年一月一〇日から同年二月二八日まで五〇日間欠勤を余儀なくされた。なお、同原告の給与月額は契約上四五万五〇〇〇円である。
455000÷30×50=758300
<3> 入通院慰謝料 一九万四三〇〇円
<4> 合計 一三四万八七七〇円
(尚、計算上は一三四万八七六〇円である。)
(三) 填補
(1) 原告まさみ 四四万三二〇〇円
(2) 原告薫 三四万五一〇〇円
4 よつて、被告らに対し、原告まさみは六一万五七九〇円、原告薫は一〇〇万三六七〇円及びこれらに対する不法行為の日である平成三年一月一〇日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1のうち、道路標識に衝突したことを否認し、その余の事実を認める。
2 同2の事実をいずれも認める。
3 同3(一)の傷害の程度を争う。
同3(二)の損害は不知ないし争う。
同3(三)の額は認める。
三 被告らの主張
1 原告薫の入院費用のうち、個室使用料は本件事故との相当因果関係を欠く。
2 原告らの休業損害に関し、それらの収入額については信憑性がない。また、原告らの傷病名は頸椎捻挫と打撲・挫傷であり、レントゲン、CTスキヤンによつてもなんら異常はなかつた。したがつて、休業日数は、原告まさみについては一〇日間、同薫については一六日間とするのが相当であり、一日当たりの収入を四三〇〇円として算定すると、原告まさみの休業損害は四万三〇〇〇円、同薫のそれが六万八八〇〇円である。
第三証拠
本件記録中、証拠目録記載のとおりである。
理由
一 被告らの責任
当事者間に争いのない事実(請求原因1のうち、被告車が道路標識を倒した点を除く部分)及び関係各証拠(甲一、二、一九の一ないし四)によれば、請求原因1の事実が認められる。また、請求原因2については当事者間に争いがない。即ち、本件事故の現場手前から進行方向に向けて先は幅員が狭くなつている場所であり、この点を被告松本が見誤つたものと認められる。よつて、被告らは、原告らの後記損害を賠償すべき義務がある。
二 原告まさみの損害
1 同原告の傷害内容は、請求原因3(一)(1)と認められる。(甲四の一、二)。
2(一) 治療費 一七万二七三〇円
治療費は、請求原因3(二)(1)<1>のとおり、岡田病院分七万四三六〇円(甲四の一、二、乙一)、花の木歯科診療所分九二六〇円(甲五の一、二、乙二、六の一ないし五)、寺田病院分八万四八四〇円(甲六の一ないし三、乙三)、戸叶耳鼻咽喉科医院分四二七〇円(乙四の一、二、乙七の一、二)と認められ、合計は右額となる。
(二) 通院交通費は四八六〇円と認められる(甲九の一ないし九)。
(三) 休業損害 三〇万〇〇〇〇円
原告まさみは、請求原因3(二)(1)<3>のとおり勤務していたことが認められる(同原告本人尋問の結果、以下、証拠の引用においては、単に、「原告」ないし「同原告」とのみ表示する。)。そして、同原告は、日当は二万円で、日曜祭日は休みであつた、体の具合が悪いのと顔に傷ができたので店に出ることができなかつた旨供述し、五〇日間の休業損害を請求している。収入に関しては、確かに同原告の供述に沿う証拠はある(甲一六、一七)が、他方、洋服や美容院の費用は自己負担であつた旨述べている(同原告)ことに鑑みると、日当二万円から経費分二五パーセントを控除した金額を同原告の収入とみるのが相当である。
次に、同原告の休業期間については、外傷に関して平成三年一月一〇日から同月二四日まで治療がされているにすぎないこと(甲四の一、二、甲五の一、二)、その後の治療は頸椎捻挫のためのものと認められる(甲六の一、二)が、頸椎捻挫に関しても他覚的所見が見受けられない(甲四の一)上、二月四日の後は、通院が同月一三日、三月六日の二日に止まることに照らすと、同原告のやむを得ない休業日数は二〇日間とするのが相当である。
したがつて、同原告の休業損害は三〇万円となる。
20000×(1-0.25)×20=300000
(四) 通院慰謝料 八万一四〇〇円
同原告の受傷の内容・程度、通院日数(一二日)・期間等諸般の事情を考慮すると、慰謝すべき損害額は同原告の請求額を下らない。よつて、八万一四〇〇円と認める。
(五) 合計五五万八九九〇円
三 原告薫の損害
1 証拠(甲七の一ないし三、甲八の一ないし三、乙五)によれば、同原告の受傷内容は請求原因3(一)(2)と認められる。
2(一) 治療費 三四万〇五四〇円
治療費は、岡田病院の入院・通院治療費分二七万五四四〇円(甲七の一ないし三)及び寺田病院分六万五一〇〇円(甲八の一ないし三)の合計三四万〇五四〇円と認められる。
同原告は入院についての個室使用料五万五六二〇円をも請求しているが、その必要性を認めるに足りる証拠はない。
(二) 休業損害 二一万一七〇四円
同原告は、請求原因3(二)(2)<2>記載の勤務を始めて一、二日目頃に本件事故に遭つたことが認められる(原告まさみ)ところ、同原告の収入額を裏付ける客観的証拠はない。しかし、同原告が事故後もスナツクに勤めていたことが認められる(原告まさみ)から、平成二年度の同年代(二七歳)の女子の平均賃金を下らない収入を得ていたことは明らかである。そして、傷害の程度、退院後の通院経過に鑑みると、休業期間は本件事故日から二月四日までの二六日間とするのが相当である。
したがつて、賃金センサス平成二年第一巻第一表・産業計・企業規模計・学歴計・二五~二九歳の女子労働者の年収額二九七万二〇〇〇円を基礎に、二六日間の額を算定すると、二一万一七〇四円となる。
2972000÷356×26=211704
(三) 慰謝料 一五万〇〇〇〇円
慰謝料については、同原告の受傷内容・程度、入院期間等の治療経過に鑑みると、右額が相当である。
(四) 合計 七〇万二二四四円
四 填補 原告まさみ分 四四万三二〇〇円
原告薫分 三四万五一〇〇円
(いずれも当事者間に争いがない。)
五 填補後の原告まさみ分認定額 一一万五七九〇円
原告薫分認定額 三五万七一四四円
六 以上の次第で、原告らの本訴請求は、被告らに対し、それぞれ前記五記載の金額及びこれらに対する平成三年一月一〇日から各支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小西義博)